年金は一定期間以上加入することが条件とされていることが多いです。日本では25年間の加入が必要でしたが、2016年8月1日より10年に短縮されました。しかし、海外に働きに出ている人が年金の支払いをどうしているのか知っていますか?その疑問について今回はお答えしていきたいと思います。
人の国際移動に伴う社会保障上の問題と社会保障協定
①保険料の二重負担
海外に派遣された労働者は自国の年金制度に加入したままになっています。しかし、派遣先の国によっては公的年金制度等の社会保障制度に加入かつ保険料支払いの義務を果たさなければならないということもあります。そうすると保険料の二重負担が生じてしまいますね?
それらを調整する役割を担うのが社会保障協定です。
この協定によって社会保障の調整が行われます。この場合は原則相手国の社会保障制度のみの適用になります。しかし、派遣期間が一定期間以内であれば自国の社会保障精度にのみ加入したままになり、相手国の社会保障制度は免除されることになります。
②老齢年金の受給資格
年金の受給には一定期間の加入条件が有るのは冒頭で説明した通りです。それは日本以外の国でも数多く採用されている方式です。そのため、派遣期間が最低加入要件未満の場合、派遣国で保険料を支払っていたにもかかわらず年金をもらえないという問題が生じます。
そこで社会保障協定です!
両方もしくはいずれか一方の期間条件を満たさなかった場合、自国と相手国の加入期間を通算できるんです。相手国に対しては国籍や居住地を理由とした年金給付支払いの制限を行わないこととし、日本できちんと支払った実績があれば受給できます。
③ 実施機関の相互協力体制
実際年金の支払いを申請する時になって気づくのですが、海外にいた期間の年金はどこに申請すればいいのでしょうか?答えは相手の国の実施機関です。しかも直接自分で連絡しなければなりません。それってすごく面倒ですよね。
そこで社会保障協定です!
自国の実施機関の窓口に相手国の年金給付申請書を提出することができるようになるんです!しかし、社会保障協定においてこの部分の合意がなされている国は①と②に比べて少ないです。
このように社会保障協定は人の国際移動によって生じる社会保障の問題を解決するために締結されます。日本は2017年8月時点で20か国と署名し、17か国分発行されています。
日本と米国の場合
今回は日本の加入期間が25年だった時の時点の例を使って紹介しています。そのほうがわかりやすいのでご理解いただければ幸いです。
ちなみに米国の最低加入期間は10年です。
<協定発効前>
①二重負担の課題
日本と米国の場合は両方の国の年金保険を支払わなければなりません。そのため、米国に仕事などで派遣された方は日本と米国の年金を二重負担することになります。
②年金資格の確保
仮に日本で19年働き、6年間だけ米国に派遣されたとします。その後日本に戻って来た後に15年働いたとします。
日本の年金保険は払い続けていたため、日本の最低加入期間は満たしますが、米国の最低加入期間を満たしていないことになります。そのため、支払ったにもかかわらず米国の年金は負受給です。
<協定発効後>
①二重負担の課題
米国への覇権が短期(5年以内)の場合は、米国の年金保険に加入しなくてもよくなりました。つまり、日本の年金保険の制度を継続して加入し、米国の年金保険は免除されます。
あれ、6年以上10年未満の覇権の場合はどうなっちゃうの?
二重負担の問題は解決できていないんじゃ…
そんなことを思われるのはもっともです。それを解決するのが②です。
②年金資格の確保
先ほどの例と同じように日本で19年働いた後、米国に6年派遣されて戻ってきた労働者の例を利用して説明します。
その人の場合、確かに日本と米国の両方の年金保険に加入し、支払わなければなりません。
しかし、社会保障協定が結ばれたことで日米の期間を合算できるようになったのです。
つまり、19+6+15=40で米国の最低加入期間10年を満たしたと判断されるのです。
ここで注意しなければならないのは、米国から支給される年金は支払った6年分のみであるという点です。日本の年金もまた同じくですね。
日本の社会保障協定の問題点
社会保障協定は一見素晴らしいものに見えます。しかし、問題も多く残されており、これらを解決しなければ協定を結ぶ意味がありません。特に日系企業から派遣される事が前提とされていること。そして日本の社会保障が出身地主義を採用していることが最大の問題といえるでしょう。特に以下の3つが考えられうる深刻な社会保障協定の欠陥です。
① 社会保障の無適用
日本人が海外に個人で就労する場合には日本の社会保障の適用外とされてしまいます。また、就労する国によってはその人が外国籍であることから社会保険が適用されない場合もあります。そうなると社会保険の無適用ということが起こりうる状況にあります。その問題について社会保障協定では解決されていません。
その原因は日本が出身地主義を採用しているためです。そのため、日本に住んでいなくても日本人であるというだけで社会保障が適用され続ける場合もあるのです。しかし、ほとんどの国は就労している国の社会保障を適用する方式をとっています。そうした齟齬がこのような問題を生みかねません。
② 年金制度を中心とした協定
社会保障協定はあくまで年金制度についての調整を行うために結ばれた協定です。つまり、それ以外の分野の社会保障に関しては従来通りとなります。
その理由もやはり日本の出身国主義のあり方にあります。医療制度も現地に合わせた方が都合がいいため、あえて触れられてきませんでした。また、日本の健康保険が世界中の病院に医療費の償還をするのは大変難しいためというのも理由の一つでしょう。
③ 恩恵を受けるのは日系企業の短期滞在の派遣社員のみ
あくまで日系企業に勤めていることが前提の協定です。そのため深刻な社会保障の問題を抱える長期滞在の在外邦人などには影響はありません。
まとめ
社会保障は社会から排除された人を再び戻すために国が援助する為に採用されているものです。それが、国を超えてしまうだけで恩恵が受けられなくなってしまうのは問題です。日本も国際かあを謳うのであれば世界基準に合わせて雇用国主義を採用するべきであると言えるでしょう。そうならなければいくら社会保障協定で調整したとしても上記の問題は解決されることはないでしょう。
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