<a href="//blog.with2.net/link/?1930729">人気ブログランキングへ</a>EUの社会保障の歴史は1997年に調印され、1999年に発行されたアムステルダム条約が本格的な今の動きに繋がっています。今回は前回の続き空になるので前回の記事を読んだ上でお読みください。
アムステルダム条約
この当時英国でブレア政権が成立しました。そのことによってEUとの社会的協調路線が図られるようになり、この条約が締結されました。その結果EC条約に社会政策関係の条文を取り入れることが可能になり、社会保障に関する条文も明記できるようになったのです。ちなみにその条文はEC条約125条~130条がそれにあたると言えます。
そしてEU条約第2条において「高水準の雇用」が規定されました。そのための仕組みとして前回の記事で説明した「公開調整手法」がとられることとなったのです。
そして1997年に欧州雇用戦略(European Employment Strategy)が発表されました。これは4つの柱を中心にして欧州の雇用状況の改善を図るための取組でした。4つの柱は以下のものになります。
① 雇用可能性(employability)を高める。
② 起業家精神(entrepreneurship)を発達させる
③ 企業及び被用者の適応可能性(adaptability)を奨励する
④ 機会均等政策を強化する
これが後にリスボン戦略へと繋がっていくのです。
リスボン戦略
リスボン戦略とは2010年を目標にEU の経済・社会面での戦略目標の通称をさします。2000年の3月に発案されました。その背景には通信技術の発達による経済における米国優位の社会になりつつある事への危機感や労働者の新しい労働環境への適応を助ける意味合いがありました。
【戦略目標】
より良い職とより一層の社会的結合(social cohesion)を伴った、持続可能な経済成長を実行しうる、世界で最も競争力のあるダイナミックな知識基盤社会の実現
この時点の社会領域(社会保障を含む)の目標は欧州社会モデルを現代化し、人々に投資し、社会的排除と闘う事でした。つまり、雇用戦略をメインに行っていくということです。
そして2000年12月のニース欧州理事会でその戦略が具体化されました。
【4つの共通目標】
① 就業への参加、並びに資源・権利・財・サービスへのベン人のアクセスを推進すること
② 排除のリスクを阻止すること
③ 最も傷つきやすい人を支援すること
④ すべての関係者を動員すること
【具体的な数値目標】
・就業率(15-64歳の年齢層に占める就業者の割合):61%→70%
・女性の就業率:51%→60%
・高齢者(55-64歳)の就業率を50%に引き上げ
その結果が以下の通りなわけですが、途中でEUの東欧拡大があったために数値結果を分けて表示してあります。上が全体、したが東欧諸国を除いた数値です。
・ 就業率:64.6%(EU27ヶ国)
65.9%(EU加盟国のうち中・東欧諸国を除く西欧15ヶ国)
・女性の就業率:58.6%
59.9%
・高齢者の就業率:46.0%
48.0%
途中にリーマンショックを挟んだためか、目標は東欧諸国を除いても未達成に終わりました。女性の就業率などはかなり改善されたところを見ると、リーマンショックがなければもしかしたら達成できていたのかもしれません。しかし、いずれにせよこの結果だけ見ればリスボン戦略は失敗に終わったと言えるでしょう。
『欧州2020』戦略
達成できなかったリスボン戦略に代わって発表された2020年までの中期戦略です。European Comissionによると「21世紀にふさわしい欧州の社会的市場経済の構想を提示している」とのことです。
【3つの優先事項】
① 活発な成長:知識とイノベーションに依拠する経済を発展させる
② 持続可能な成長:より一層資源効率が高く、より一層環境保護志向で、しかもより高い競争力を持つ成長を促進する
③ 包摂的な成長(inclusive growth) :経済的・社会的・地域的結束をもたらすような高水準の雇用を伴う経済を育成する
【5つの主要目標】※3つの優先事項を具体化したもの
① 20-60歳の人口における就業率を現状の69%から少なくとも75%へと高める
② 研究・開発にGDPの3%を投資するという目標の堅持
③ 温室効果ガスの排出を、1990年の水準に比して少なくとも20%削減する。あるいは、条件が整うなら30%削減する。最終的なエネルギー消費に占める再生可能なエネルギー源の割合を20%にまで高める。そして、エネルギー効率を20%高める。
④ 中等教育の中断率を現状の15%から10%(未満)へ低下させ、30-34歳の年齢層に占める第3次教育(高等教育及び職業教育)修了者の比率を、31%から2020年には少なくとも40%へと高める
⑤ 各国の貧困線以下の生活を送っている欧州人の数を25%減らし、そうすることで2000万人以上の人々を貧困(と排除のリスク)から救い出す
2010年6月の欧州理事会の議長総括において④と⑤に変更が加えられる
④ 中等教育の中断率を2020年までに「10%未満」にまで下げる
⑤ 25%削減という目標数値が消える
貧困線→「貧困と排除のリスク」という指標に変更
「少なくとも2000万人の人々を貧困と排除のリスクから救い出すのをめざすことにより、とりわけ貧困の縮減を通じて社会的包摂を促す」(European Council 2010, p.12)
・貧困と排除のリスクに見舞われている人々とは?
① 貧困のリスクに見舞われている
各国の可処分所得中央値60%未満の世帯に属する人々
② 物質的な剥奪
物質的剥奪に関わる9つの項目のうち4つ以上が欠落している世帯に属する人々
③ 就労者のいない世帯
18-59歳の世帯員のうち誰ひとりとして働いていないか、あるいはこの年齢層の就労時間の平均値が著しく低い世帯
上記の指標のうちどれか一つが当てはまる世代に属する人々
※加盟国は自国の貧困削減目標を設定するうえで、それぞれの国内事情に応じてこれら3つのうち適切だと思われる指標を自由に選んだり組み合わせてたりしてよい。
リスボン戦略と『欧州2020』戦略の違い
① 戦略目標の「より良い職」の言及がなくなりました
それはパートタイムや非正規雇用が広まっている現状からそれに配慮したものであると考えられます。
② 新たに「就労者のいない世帯」を減らす目標が掲げられました
指標として盛り込んでしまうことでワーキング・プア増大を正当化してしまう危険性があるためです。働きながらも貧しい生活を送らなければいけない人々が正当化されてしまえば、貧困削減には繋がりませんし、政府が社会政策で人々の生活に介入する意味がなくなってしまいます。
③ 女性と高齢者の職業率についての目標値の設定がなくなりました
これに関してはリスボン戦略において大幅に改善できたからか、それともジェンダー視点の後退か。いずれにせよ記述がなくなったことは確かです。しかし、各国では定年制の廃止や女性の雇用推進など国ごとの取組みは行われています。
まとめ
『欧州2020』戦略はまだ道半ばです。現在までに「ギリシャ危機」や「難民危機」そして「英国のEU離脱」などの問題が数多く発生しており、現状は目標を達成するどころではないと思われます。
今後欧州の社会保障政策がどうなっていくのかは「難民危機」をどう乗り越え、難民がEUの労働者として納税者になれるかどうかにかかっているのではないでしょうか。何年も「難民」扱いをすることはできません。その人たちを今後どうするかにより、欧州の今後は左右されるでしょう。
国民の納税が国民のためではなく、外国の難民のために使われている現状をEU市民はやはり不満に感じているのではないでしょうか。英国のEU離脱の一端もそこにあるような気がしています。
現在も治安の悪化で各国でテロが起こっているEU。今後も一つの共同体としてまとまっていけるのか注目していきたいですね。
0コメント