シェンゲン協定によってEUは移動の自由が保障され、国境という概念が取り払われています。しかし、EUは国ごとに社会保障政策の在り方が違うことはご存知でしょうか?EUで方針は示しているものの、強制力はありません。
今回はEUに加盟している国々がどのような社会保障の在り方をしているのか見ていきたいと思います。
□福祉レジームと分類
社会保障はあくまで対国民向けの政策であり、ほとんどの国で税金から支払われています。
日本でも少子高齢化の影響で毎年社会保障費の支出がかさみ、税金の約3分の1が社会保障費として使われているほどです。しかし、日本はEUとは違って国境がきちんと設定されていますし、外国人労働者が日本の社会保障を受けるという条件は国民以上に厳しいものとなっています。
EUも国ごとに社会保障の在り方というものが異なっています。
イエスタ・エスピン=アンデルセンによって福祉国家は3つ(自由主義的レジーム、保守主義的レジーム、社会民主主義レジーム)に分類されました。
◎自由主義的レジームの特徴
国の役割は規制政策や減免全を通じて市場のパフォーマンスを高めることとしており、市場メカニズムを優先する政策をとる社会保障政策をとります。個人主義の考え方が強く、人々は民間の保険に入ることが望ましいとされます。そのため、上流階級の人々を増やすのは市場メカニズムに任せ、国はほとんど介入しません。社会保障も資力調査を伴うものがほとんどです。
代表的な国:カナダ、アメリカなど
◎保守主義的レジーム
人々が自分の家族のために福祉サービスを行える環境をつくりだし、そのことが経済的に可能になるような条件を作り出すことが国の役割であるという社会保障政策をとります。国家の給付は家族給付などのケアサービスに関するもの、労働のための能力枯渇した場合にのみ提供されるという形をとるものが多いです。また、社会保障のサービスを受けるために地位や職業別の分類があることがこのレジームの最大の特徴といえます。
代表的な国:ドイツ、フランスなど
◎社会民主主義的福祉レジーム
労働と福祉を融合した類型のレジームです。国の労働力を最大化することで税収を増やし、その税収で社会保障費を賄う。そして、社会保障サービスを国が行うことで介護などで働けない人々が社会に出て働き、納税するという方法で社会保障政策を行っています。給付の水準も中流階級以上のものが享受するものを提供できるようにし、職業や地位に関わらず全ての人が社会保障を受けられるような仕組みになっています。
代表的な国:スウェーデン、デンマーク、ノルウェーなど
上記を簡潔にまとめたのが以下の表です。
◆脱商品化
労働力(商品)からの自由度を示します。労働力(人)の商品化がされているかいないかという度合いです。つまり社会権の保証がどの程度されているかということですね。つまり高ければ高いほど社会サービスの保証が手厚く、労働者の権利が経営者の権威に勝っている状態であると言えます。
◆階層化
職種や階層に応じた給付やサービスを受ける資格や内容の格差を示します。貧困層がお金を稼げるようになるとサービスを受ける側から払う側にシフトします。しかし、中流階級も生活するのに不自由のない程度であり、国家の保証が必要ないとは言えない階級です。だからこそ給付を受ける人も払う人も両方出現するわけです。その給付を受ける側と払う側の二重構造が生じている度合いを示すのがこの階層化指標となります。
◆プライベート・セクター
これは民間にどの程度依存しているかの指標ですね。これに関しての差がこの3つのレジームにおける最大の特徴といえるでしょう。
近年ではアンデルセンの分類以外にもそれらのレジームを組み合わせたものがあるという指摘が数多くなされています。その1つがM・フェレーラの提唱した保守主義型レジームの付随レジームの形をとる「家族主義レジーム」である。
◎家族主義レジームの特徴
保守主義的レジームと同じく階層化した社会保障が提供されていますが、公務員のようなホワイトカラーの職業には高水準の年金。保護されていない人々には低水準の年金が支払われるというような格差が生じているのが特徴です。
⇒職域ごとに分立した医療制度
⇒公共部門と民間部門が相互浸透を起こしています。
福祉部門が脆弱、公共とはなれ合いの関係があります。
⇒現金給付における政治的なパトロン‐クライエント関係の強い存続
医療・福祉面での特定のクライエントへの情報提供、口利き、役所への根回しや圧力が政党とその候補に対する支持票の見返りとして提供されています。そういった政治的な圧力に対しての公共部門の脆弱性が現れています。
代表的な国:イタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシャ
日本はこの類型に近いという理論を展開する研究者もいます。確かに政治と福祉の関係は日本も切っても切れない関係にあります。その問題と社会保障の問題は切っても切れないものでしょう。このレジームの国々がPIIGSに属する国であるというのも個人的には不安視しています。
旧社会主義国の福祉レジーム
EUには冷戦後に社会保障政策というものを取り入れた国々も存在しています。東欧の国々ですね。全ての国ではありませんが、それらも上記とは違った別の類型に分けられます。それを提唱したのはD.ボーレとB.グレシュコヴィチです。この2人は旧社会主義の資本主義を3種類のレジームと1種類の非レジームに分類しました。
◎ 新自由主義レジーム
市場経済を急速に導入しましたが、それにともなうリスクを緩和する産業政策と不平等を是正する福祉国家の社会政策が立ち遅れている国々です。
⇒ 福祉供給度:低
⇒民主化:不十分(例外:リトアニア)
⇒コーポラティズム:欠落
該当国:バルト3国
◎埋め込まれた新自由主義レジーム
市場を社会へと「埋め込む」戦略を採用した国々をさします。
⇒福祉供給度:高
※ 新自由主義レジームと比較した度合
⇒コーポラティズム:衰退
該当国:ヴィシェグラード諸国
◎ ネオコーポコーポラティスト・レジーム
⇒ 社会主義時代から継承した国内企業を重視する産業政策をとっています。
⇒福祉供給度:高
⇒コーポラティズム:機能
該当国:スロヴェニア
◎非レジーム国家
ブルガリアとルーマニアは「新自由主義レジーム」にクロアチアは「埋め込まれた新自由主義レジーム」に接近したが、明確な輪郭を描き出すことができない流動的な状態にあるため、ボーレとシュコヴィチはこれら3国に「非レジーム」という用語を当てています。
まとめ
EUレジーム別に見ただけでもこれだけ様々な類型がみられます。だからこそ社会保障を目当てに移動をするという社会保障ツーリズムというものが発生する危険性があります。EUは国境という概念が取り払われているからなおさらです。
次回以降はEUがどのようにそのような社会保障ツーリズム対策をしてきたのか。また、社会保障政策の分野においてどのような歴史を辿ってきたのか等を取り上げていきたいと思います。
0コメント